食物などが抗原となってアレルギー反応がおこり、それらの刺激によって白血球の一種である好酸球が消化管粘膜に浸潤し、その結果、消化管の障害を来す病態の一群を好酸球性消化管疾患Eosinophilic gastrointestinal disorders (EGIDs)と呼んでいます。
好酸球による炎症が起こる場所によって、大きく好酸球性食道炎と好酸球性胃腸炎(胃炎、胃腸炎、大腸炎)に分類されています。新生児・乳幼児食物蛋白誘発胃腸症も好酸球性消化管障害に包括されてきましたが、本稿では主に幼児~成人の病態にのみ言及します。
国際的にも本邦でもEGIDsは増加していると考えられています。傾向として好酸球性食道炎は欧米>日本、好酸球性胃腸炎は日本>>欧米と報告されています。つまり、日本では好酸球性胃腸炎の患者数が好酸球性食道炎の患者数を上回っており、その開きは2011年当時の調査で約5.5倍でした。
上述の部位による部位のほか、原因による分類も提唱され、大きく一次性と二次性に分かれています。一次性の多くはアトピー性(アレルギー性)と考えられていますが、アレルギーが関与しない場合や家族性の病態もなかには存在します。狭義のEGIDsは食物アレルギーや吸入系抗原によるアレルギーによるものとされていますが、あまりにアレルギーにばかり注目しすぎると原因が突き止められず、改善に導けないこともあるのでこだわり過ぎない方がよいと著者は考えています。二次性には全身性の好酸球増多症の部分症で発症する場合や、薬剤などの医原性、感染性、先天性疾患に伴うもの、セリアック病などが挙げられます。
好酸球性食道炎による症状はほかの原因による食道炎(逆流性食道炎や放射線食道炎など)と大きくかわらず、胸のつかえ感や嚥下障害あるいは胸焼け症状です。
一方、好酸球性胃腸炎も非特異的な症状(腹痛、下痢、嘔吐、違和感など)を呈し、症状だけでは過敏性腸症候群や機能性胃腸障害などとの鑑別が困難です。
よって、その診断はまず疑うところから始まり、消化管内視鏡の実施なくして診断することは不可能です。内視鏡がオプションで含まれる健康診断や人間ドックなどで偶発的に見つかることも少なくありません。好酸球性食道炎では上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)で食道粘膜の特徴的な所見が検出されることがありますが、好酸球性胃腸炎では粘膜の浮腫や発赤など非特異的な変化しか見られないことが殆どです。そのため、EGIDsでは内視鏡下で食道・消化管粘膜の生検(組織採取)が必要であり、標本の病理検査で粘膜ないしは粘膜下組織に好酸球の多量の浸潤が存在することを証明します。また上述した鑑別疾患や悪性腫瘍、寄生虫感染などを除外することも忘れてはなりません。
好酸球性消化管疾患の治療として、好酸球性食道炎では、まず副作用の少ないプロトンポンプ阻害薬(PPI)を投与し、効果が乏しければ副腎皮質ステロイドの局所療法(2021年現在、保険適応は通っていませんので注意!)や原因としての可能性の高いor過去の報告で多い食物の除去(食べないこと)に進みます。
重症の場合には、ステロイドを全身投与(内服、注射)することもあります。最重症の狭窄が生じ、嚥下が困難な場合には内視鏡でバルーン拡張術が行われたり、手術で腫脹部位が切除されたりしたケースも報告されています。
一方、好酸球性胃腸炎ではエビデンスレベルの高い標準的な薬物治療は明示されておらず、対症療法やステロイドの内服などが行われています。アレルギーが基本病態の場合、原因が特定され、きちんと除去が遵守されれば改善します。当施設では膵炎を併発した症例や、腹膜炎を来たした症例を経験しており、その場合には集学的治療が必要になります。
昭和大学病院では消化器内科、一般消化器外科の先生方と当科が連携し、疑わしい症例の原因検索の一環としてアレルギー検査を当科が担い、消化器系診療科にて一定間隔で内視鏡検査を行ってもらい治療判定やフォローアップを行っています(下図参照)。
食物アレルギーに強い医療機関として迅速な原因診断を心がけて診療しています。
難病情報センター-好酸球性消化管疾患(指定難病98)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/3935
厚生労働省好酸球性消化管疾患研究班 編集
幼児・成人好酸球性消化管疾患 診療ガイドライン
https://www.jspaci.jp/assets/documents/eoe-ege-guidline_07282020.pdf
Suzuki S et al. Eosinophilic gastroenteritis due to cow’s milk allergy presenting with acute pancreatitis. International Archives of Allergy and Immunology. 2012; 158(SUPPL. 1):75-82.
https://www.karger.com/Article/Abstract/337782