睡眠時無呼吸症候群の治療:CPAPとは
Sleep apnea syndrome treatment: CPAP
CPAP /
SAS /
睡眠時無呼吸症候群 睡眠時無呼吸症候群と言われた!治療は…CPAP?
CPAP – Treatment for Sleep Apnea Syndrome
ここでは、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療法として使われる、CPAP(シーパップ)療法について説明させていただきます。
CPAP療法の正式名称はContinuous Positive Airway Pressure(持続陽圧呼吸療法)と言います。1980年までは、SASの治療として確実に効果が得られる方法は気管切開術(首に穴を開けて、そこから直接呼吸器を繋ぐ方法)しかありませんでした。1) 1981年に入り、登場した治療法がこのCPAPです。鼻から持続的に圧力を加え続けることで空気の通り道を息を吸うときに広げ続ける方法であり、気管切開に比べはるかに身体への侵襲が少なく、気管切開と同等の効果が得られるこの治療法は、たちまち治療の第一選択へとなりました。開発当時は到底家庭で使用できないような大型の機器でしたが、その後企業の努力によって、今はアタッシュケース一つに入れて持ち運べるほどの小型化に成功しています。2)
2005年にはCPAP治療を行ったSAS患者さんの10年間での死亡率がCPAP治療していない人に比べ改善する研究データが示され3)、CPAPは開発から約40年たった今もSASの治療の第一選択として主戦力を担っています。
CPAPにはどんな効果があるの?
Effectiveness of CPAP
SASは、日中の眠気とそれに起因する様々な社会的損失に加え、全身の併存疾患、ひいては死亡率と関連する慢性の全身疾患と考えられています。CPAPには、これらの悪影響の一つ一つに効果が認められています。
CPAPには日中の眠気を改善し、健康状態を改善する効果が実証されています。4)また、SASは治療が効きづらい高血圧のリスクとして知られていますが、この治療が効きづらいタイプの高血圧に対しても効果が実証されました。5)その他、糖尿病の原因となる「インスリン抵抗性」を改善することや6)、コレステロール値・中性脂肪値を改善させることも示されており7)、さらに脳卒中のリスクを下げる可能性も指摘されています。8)
一方で、心血管障害に対しての効果については、研究により結果にばらつきが出ています。心血管障害とSASの関連は大きく、高血圧症を持つ人のうち4-6割がSASに罹患していると言われています。先に述べた高血圧や6)心房細動9)に効果があると示されている一方、心血管障害イベントの予防には影響しないとする報告もあります。CPAPの効果は、まだ、分かっていないことも多いのです。
CPAP以外の方法はないの?
Alternative other than CPAP
現在もSASの治療の第一選択とされ、その効果は他の治療法に比べ圧倒的に多くのデータが実証されているCPAPですが、一方で患者さんの負担が大きく、中々続けることが出来ない面が課題となっています。眠気の強い患者さんでさえ、17~54%の方はCPAPを続けることができないと言われています。10)
最近の研究では、どんな患者さんがCPAP以外の治療法に対して相性の良いタイプか、CPAP以外の治療でSASをコントロールできるかについて解明が進められています。SASも「オーダーメイド治療」で治療する時代がすぐそこまで来ています。
このように、SAS患者さんの中には、空気の通り道が狭いタイプや呼吸応答に異常があるタイプなど、色々なタイプが存在し、それぞれに相性の良いタイプがあることが分かっています。12)一方で、これらのタイプ分けはいずれも研究でのデータになり、現在行える検査では、SASがあるかどうかや、重症度までしか検査する事が出来ません。今後は、これらタイプ分類に向けたテクノロジーが発達していくことに期待が寄せられています。
CPAPは一生続けなければいけないの?
Treatment period of CPAP
最後に、CPAP療法を始められる患者さんから最も多い質問について、解説させていただきます。現在、CPAP療法からの離脱(卒業)方法として最も研究が進められているのは、口腔内装置(Oral Appliance, OA)への切り替えです。無呼吸低呼吸指数(Apnea Hypopnea Index, AHI)が決められた数値まで下がった場合に切り替えが可能とされています。13)ほとんどの場合、AHIを下げる方法としては減量が指導されています。これまでは軽症のSASのみに使われることの多かったOAによる治療ですが、近年の研究で特に女性や若い患者さんにおいてOAの治療効果が高い可能性が示されました。14)温度センサーを用いてCPAP療法のように治療のモニタリングを可能とする技術も開発されており15)、今後CPAPに替わる方法として一般的になっていく可能性が期待されています。
また、新しいテクノロジーによる今までにない治療法も開発されてきています。まだ国内で流通はされていませんが、身体に振動を与え横向き寝を維持するデバイス(Sleep Position Trainer, スリープポジショントレーナー)や16)、舌下神経を刺激し上気道を開通させる埋め込み型デバイス17),18)なども効果が実証され始めています。
今後10年でSAS治療は大きく進化されることが期待され、それに伴いこれまで治療の選択肢がCPAP療法しかなかった方にも、新たな治療選択肢が生まれていくでしょう。
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著者
原文:伊田 瞳 / 校正:井上 英樹