全世界規模で致死性の全身性アレルギー反応であるアナフィラキシーの原因(誘因)として患者数が増加しているのは薬剤(薬物)と食物です。とくに成人では重症化しやすいアナフィラキシーの誘因として重要であり、医療処置や検査用試薬による反応も含めて医原性アナフィラキシーと分類されることもあります。
病院内で発症するアナフィラキシーの誘因として頻度が多いのは1)造影剤、2)抗菌薬(構成物質)、3)抗がん剤、4)輸血、5)麻酔薬ですが、最近では様々な難治性病態の治療に用いられるバイオ製剤(生物学的製剤)によるアレルギー・過敏症も報告されています。また、院外で発症する薬物によるアナフィラキシーの誘因では、ありとあらゆるクスリで報告があるため、どんな薬物でアナフィラキシーが生じやすいのか頻度の割合を全国規模で調べた報告はほとんどありません。
なぜ、ここまでの文章でアレルギー・過敏症と2つの病態を併記しているかと言うと、その区別が現実的には非常に困難であるからです。ほかの項にも解説がありますが、「(狭義の)アレルギー」とはアレルゲンに対する特異的IgE抗体が体内で産生(感作)され、その後に同じアレルゲンが体内に侵入(曝露)した際に生じる即時型アレルギーによるものを指します。実はアレルギーにはほかにも別の機序による病態が複数知られており、また、アレルギーに似た症状を来すものの実際にはアレルギーのメカニズムとは異なる病気である過敏症というものも存在します。薬物の体内濃度が急激に増加し発症する中毒という原因もあり得ます。しかしながら、現行の保険診療では、限られた検査しか行うことができず、上記の病態の区別(鑑別)は専門施設でも容易ではありません。
さらに付け加えると、薬剤には種々の添加物(保存料、安定剤、着色剤、コーティング剤、固形剤、防腐剤など)が入っており、薬効を示す物質ではなく、そうした添加物によるアレルギーや過敏症まで誘因として考えなければいけません。
不安や緊張から生じる心因反応や過換気症候群(過呼吸)、注射などの痛みによる迷走神経反射から同様の症状を来す場合も少なくありません。歯科麻酔や耳鼻咽喉科領域における局所麻酔による諸症状は「恐怖」による要素も少なからずあり得ます。
薬物によるアナフィラキシーに関しては上述した理由から、誘因検索や同定に大変時間と労力がかかります。血液検査だけですぐに結果が出るものではないこと、将来アナフィラキシーを発症し得る薬剤の予測を可能とする検査は現在存在しないこと、すべての患者さんで誘因が突き止められないこと、をご理解ください。場合によっては、過度な検査は行わずに当該の薬物(被疑薬)を生涯にわたって回避するように説明することもしています。