結核菌(Mycobacterium tuberculosis)は抗酸菌の一種であり、抗酸菌は現在169種類が登録されている。肺結核のほとんどが空気感染するとされている。類縁の微生物が原因である非結核性抗酸菌症とは異なり、ヒトからヒトへの感染が成立しやすく、感染拡大を防ぐために、感染対策や感染源の特定が重要である。強い感染力があるため全数報告対象(2類感染症)であり、感染症予防法により、結核症を診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。
結核菌の感染の成立は必ずしも感染症の発病と同義ではない。疾患としての肺結核は、胸部X 線の異常、排菌などを認めた時に診断され、それを以て治療の対象となる。初感染時に、菌の毒力が強いか、または個体の抵抗性が弱い場合には、初期変化が治癒に向かわず、肺門リンパ節結核、頸部リンパ節結核および結核性胸膜炎を発症する。一方、リンパ血行性に結核菌が移行すると粟粒結核や結核性髄膜炎など重篤な病態に進展する。結核菌感染に引き続き初期に発病する結核のことを一次結核と呼んでいる。日本人ならほぼ誰もが経験のあるBCGワクチン接種は、これら結核菌感染後の初期変化がリンパ血行性に進展することを阻止するはたらきを有している。一次結核の発病を抑制している。
初感染を経て結核菌に対する特異的細胞性免疫の成立後にみられる成人の肺結核は、静菌化していた結核菌が冬眠していた状態から再び増殖し、発症することで起こるとされる。成人の肺結核発症において、高齢者や HIV 感染者などのように免疫機能の低下がみられる場合や大量の菌の暴露があった場合は、外来性の再感染が発病に結びつくと考えられる。つまりこうした条件を満たす患者では、結核菌の大量の曝露を回避するように配慮する必要がある。
本邦における結核罹患率は(2016年時点で)13.9/10万人年とされており、多くの欧米先進国の率に比較して2倍から4倍とかなり高い状況と報告されている。日本は結核菌の「中蔓延国」に分類されており、決して「過去の病気」ではないことに改めて気づかされる。
症状は、発熱・夜間盗汗、全身倦怠感・易疲労感、体重減少、食思不振、咳嗽・喀痰、血痰・喀血、胸痛、呼吸困難感を認めることがある。また、肺外の結核(腸結核、骨結核、皮膚結核など)に罹患した場合はそれぞれの臓器により、腹痛・下痢・しびれや筋力低下などを示すことがある。
喀痰検査、血液検査、画像検査などを組み合わせて行います。抗酸菌診断時の喀痰の検査回数は基本的に3回行い、結核感染を疑った場合は気管支鏡検査を行うこともあります。検査の結果、結核菌を排菌(吐いた息に菌が出ていること=他人にうつす可能性がある)しているようであれば陰圧室で入院加療を行うこととなる。
治療は、肝障害のある方やご高齢の方など一部の方を除いて、主に4剤の薬剤(抗菌薬)で2か月、2剤で4か月、合計して6か月の抗結核薬の内服加療を行う。薬剤それぞれに副作用もあるため、それらを十分に説明した上で治療を開始するが、副作用のために治療を中断したり、中止せざるを得ないこともある。かつて結核は「不治の病」とされたが、現在では治療をしっかり最後まで完遂できれば、肺結核はほぼ全例で治る病気であると考えられている。治療薬の内服期間が長いため、一部の症例で服薬遵守(アドヒアランス、かつてはコンプライアンスとも呼ばれた)が不良化することが問題視されている。当該患者の治療が不十分になるばかりか、抗菌薬に抵抗性を持った耐性菌を生み出すきっかけになるため、服薬を安全かつ継続して出来ているか、医師、看護師、薬剤師、家族/保護者など多職種でサポートする体制が求められる。
当院は結核指定医療機関であり、陰圧室も完備しているが、排菌している(継続した入院治療が必要な)患者は結核病床を有する病院に診療を依頼する形をとっている。重篤な合併症を患っている方の治療や内服コンプライアンスに不安がある方への積極的な直接服薬確認療法(DOTS)の実施も行っている。
治療に難渋する患者さん、副作用などで治療困難の患者さんがいらっしゃいましたら是非当科へご紹介ください。
公益財団法人結核予防協会
https://www.jatahq.org/about_tb/
日本呼吸器学会 呼吸器の病気 A-07 肺結核
https://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=6
国立感染症研究所 結核とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/398-tuberculosis-intro.html
山口 史博ほか.気管支鏡検査前クォンティフェロンTBゴールド測定の有用性(会議録).
感染症学雑誌. 2019; 93: 95-96.
桑原 直太ほか. 家族内再感染により肺結核を発病したと考えられる姉妹例の検討(原著論文/症例報告). 結核. 2018; 93 :463-467.