脂質というと栄養素をイメージするかも知れませんが、シグナル分子としての働きもあり、その質的・量的異常はさまざまな疾患に関与します。 細胞膜を構成するリン脂質はホスホリパーゼA2(PLA2)により切り出され、脂肪酸(アラキドン酸やEPA、DHAなど)とリゾリン脂質に分解されます。 これらが種々の合成酵素により代謝されることで脂質メディエーターが産生され、標的細胞上の脂質受容体に作用し、その生理学的機能を発揮します。
呼吸器疾患においては、気管支喘息との関係がよく知られています。 CysLT1受容体阻害薬であるロイコトリエン拮抗薬は気管支喘息の治療に実際に応用されており、非ステロイド性抗炎症薬NSAIDsのCOX阻害作用は、アラキドン酸代謝系が5-LOX系に傾く、あるいはCOXの下流で生成されるPGE2の産生低下を介してアスピリン喘息を引き起こすことが知られています。
一方で、慢性閉塞性肺疾患COPD患者における体重減少の背景にPLA2G2D(PLA2の一種)遺伝子多型が指摘されていることや、間質性肺炎においてはLPA1受容体(リゾリン脂質の受容体)が線維芽細胞の遊走、肺血管透過性の亢進などを介して線維化を悪化させるとなど、喘息以外の呼吸器疾患にも関係することが明らかになってきています。
このように脂質代謝系は生体の恒常性や、病態形成にかかわりますが、詳細な機序については未解明な部分が多いのが現状です。