現代社会では推計6万5千種以上の化学物質が利用され、さらに毎年新たな工業用化学物質が認可されている。日々の生活や職業環境において「何かの化学物質に大量に曝露されたり、または微量だけれども繰り返し曝露された後に発症する」可能性があるのが化学物質過敏症である。患者の訴える症状は神経症状、関節・筋症状、皮膚・粘膜症状、眠症状、気道症状、消化器症状、循環器症状、免疫症状、泌尿器症状、婦人科症状、内分泌症状など多岐に渡る。過去の報告では家屋やオフィス内の建材・塗装用溶剤によるシックハウス、農薬・殺虫剤、工業用など有機溶剤などが本邦における原因としては多いとされるが、食品や衣類、香粧品、芳香剤などに含まれる化学物質で発症する患者も少なくない。
診断のためには患者自身が経験した事案を記録し、それを基にした問診を行うことが主となるが、自律神経検査神経眼科的検査、内分泌学的検査などが補助的に有用なことがある。以前、一部の施設で行わられていたチャレンジテストは種々の理由で行われることは稀になった。
本病態の症状は、内科的には甲状腺疾患、更年期障害、各種金属中毒症、ビタミン欠乏症、膠原病・自己免疫疾患、サルコイドーシスなどによる症状との鑑別が容易ではなく、上記の疾患を除外するための検査を優先して行っている。病態の解明が不十分であり、特別な治療法はまだ開発されていない。患者の記録や環境調査から判明した有害化学物質のデータなどに基づき、当該化学物質の曝露を回避することが原則であるが、現代生活では完全な回避は困難なことの方が多い。ビタミン補充、ミネラル補充、グルタチオン、プレガバリンなどの薬剤が有効とする報告も散見されるが、十分な科学的根拠に乏しいのが現状である。