呼吸機能検査は、スパイロメーターという機器を用いてヒトの呼吸機能を数値やグラフで評価する検査である。比較的侵襲度の低い検査であり、咳嗽、呼吸困難といった呼吸器症状に対する原因疾患の特定の一助になるだけでなく、肺、消化管(胃・大腸など)、心臓など、全身麻酔を必要とする手術の耐術能(手術に耐えうるか)を評価する指標にもなる。
まず、患者が安静呼吸をした後に、最大吸気位から最大呼気努力によって最大呼気位まで一気に息を呼出してもらうことにより、時間による肺気量の変化を記録する。1秒量(最大努力呼気の際に呼出開始から最初の1秒間に呼出される肺気量、forced expiratory volume in 1 second; FEV1)や努力肺活量(forced vital capacity; FVC)、1回換気量や最大吸気量などの肺気量分画、を測定することができる。
1秒量を努力肺活量で除したものが1秒率(FEV1%)と定義される。短時間作用型β刺激薬の吸入を行った後の1秒率が70%未満の場合であり、呼吸困難、咳嗽、喀痰などの症状を伴う場合に慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)と診断される。同じ閉塞性肺疾患である喘息には、呼吸機能検査の明確な基準はないが、低下した1秒量および1秒率に可逆性があるかどうか(短時間作用型β刺激薬の吸入後、1秒量がベースラインから200mlかつ12%以上の改善あり)、が有用である。
また肺活量の実測値が患者の身長と年齢から計算される標準予測値に対して80%未満の場合は、間質性肺炎に代表される拘束性換気障害に分類される。努力肺活量は間質性肺炎の進行程度の目安の一つになっている。
肺拡散能検査はガスが1分間に肺胞から毛細血管に移動する量を測定したものである。酸素や一酸化炭素の移動量は肺胞や毛細血管、両者の間に存在する間質における拡散力に依存する。肺胞構造が破壊されるCOPDや間質の線維化を認める間質性肺炎のような疾患では肺拡散能が低下しており、特に気腫合併肺線維症(combined pulmonary fibrosis and emphysema; CPFE)では有用な指標の一つとされている。
一方で、喘息は肺胞構造の破壊を認めないため肺拡散能は低下しない。そのため閉塞性換気障害に分類される気管支喘息とCOPDの鑑別にも肺拡散能検査は有効である。当院では全国的に最も頻用されている1回呼吸法で肺拡散能が測定されている。
強制オシレーション(forced oscillation technique; FOT)により測定する。努力呼吸や長時間の息止めが必要な上記の検査項目と異なり、安静時呼吸で測定が可能である。患者の身体的負担も少なく、当施設でもCOPD患者における病態把握に有用であることを報告しており1、積極的に検査を行っている。
当院では上記のような呼吸機能検査を用いて、気管支喘息やCOPD、間質性肺炎などの呼吸器疾患の病態の診断や重症度を評価し客観的な評価として日常診療に役立てている。
1.Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2017; 13: 79-89. PMID: 29317813.